中学1年生の時、校舎の3階奥にある図書室で、確か昼休みに見つけたんだったと思う。天然記念物の動物たちというタイトルに興味を引かれ、そのあと畑正憲という名前をみた。畑正憲という名前が、当時テレビで放映されていた「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」のムツゴロウさんを示している事は何となく知っていた。が、物書きであることは知らなかったので、ふとした発見に驚き、少し興奮したのを覚えている。
この本はタイトルの通り、日本各地の天然記念物の動物たちをムツ氏が訪ね歩くエッセイ。オオサンショウウオ、テツギョ、カブトガニ、グジョウジドリ、など全部で12のトピックがある。
昭和47年に初版発行されているが、実際に取材をされていたのは昭和43年夏からの約1年だそう。ムツ氏は昭和10年生まれなので33〜34歳の頃。
本の巻頭には各種の白黒写真が、コンテンツの頭には表題と共にイラストと地図が入っている。おそらくかなりユニークで昭和感のあるイラストと古びた文庫本の甘い香りが子供心に印象的だった。
文章は読みやすく、またおもしろい。散ちりばめられた少しおおげさにも思える表現は読んでいて嫌みがないと思うし、またそれらに負けない行動力と、入念に調べられた知識と過去動物に携わってきた経験と丁寧に掘り下げた考えに基づいて文がすすんでいく。リズムがよく、情景の描写が心地よい。
また、希少で日本のどこかにいる実際にいる動物をテーマに書かれている、というのは、移動がままならならず夢見がちな中学生にとっては、地図を見ながら夢中になるには充分だったと思う。テツギョのいる奥羽山脈にある沼の景色を妄想し、ホタルイカはどんな味なんだろうと思いを馳せた。
一気に読み上げ、この本を読み終えたら続けて他の著作を借りて読んだ。図書室の本を読み終えたら、本屋で探して読み、近所の本屋にあるものを読み尽くしたら、出版社の角川書店と文藝春秋に電話をかけて、残りの著作をまとめて送ってもらった。
当時どれだけの理解をしていたんだろうと思うけれど、
今改めて読み返してみても面白い。自分はこの時のムツ氏よりもすでに年上だけれど
今まで自主的に文章を書くことはなかったし、当然考えは比べるべくもない。
今、自分でつたない文を書いてみて、作者のしていることが、凄いことなんだと
改めて思う。同時に、経験してきたことを自分なりに文をまとめる事で、より深く考え、濃い経験になるのであれば、ここまでの事はできなくともやる価値はあるのだろうと、
本当に今更ながら、ぼんやりと考えた。